TSUKIKUSA 公式オンラインストア

TSUKIKUSAはいわゆるファクトリーブランドなので、自身で製作したものを販売しています。
ただ、多くの職人さんを抱えていたりするわけではなく、基本ひとりで製作しているので、製作中に製作風景の写真を撮ったりすることはなかなか出来ず、どうしても製作に関わる部分をお伝えする機会が少なくなっています。

製作している部分はやはり多くの方に興味を持っていただけるところでもありますし、ブランドとして大切にしている「丁寧につくる」ということを、お伝えするにも一番伝わりやすいことかなと思うので、これから大きく作業ごとに分けて、書いてみたいと思います。

今日は裁断のこと。

何をつくるにしても、まず一番はじめにするのが裁断です。
裁断をする上では、革という材料の特性を理解することがとても重要です。

まず革は、一定の形、サイズではなく、一枚一枚に個体差があります。
そして、部分によっては傷や染みがあったり、トラと呼ばれる首周りのシワ、色ムラなどがあったりします。
繊維には向きがあり、引っ張った時に伸びやすい向き、伸びにくい向きがあるので、そういったことも把握しなければなりません。

更にはつくる製品への理解、つまり、表に見える部分か否か、使う時に負荷がかかる部分か否か、縫製や金具が入る位置など、仕上がりをイメージしながら、パーツの位置や向きを選ぶことが求められます。

これらのことを踏まえた上で、早く、無駄なく、裁断していきます。
裁断は主に革包丁を使っての手裁断か、裁断機(クリッカー)と抜き型を使っての裁断の2種類があります。
どちらでも仕上がりに優劣があるわけではないですが、数をつくる場合は裁断機の方が圧倒的に早いので、抜き型を作っているものは裁断機を使います。

裁断機を使う場合は、さほど技術が必要なわけではないですが、上述のようなことを一瞬で読み取り、判断する「経験」と「判断力」が問われます。
また、万が一にも裁断機と抜き型の間に手を挟まれてしまえば一瞬で手は潰れてしまうので常に緊張感を強いられる作業です。

裁断機にもいくつか種類がありますが、私が使用しているのは昔ながらの油圧裁断機です。
油圧の力でヘッド部分が上下し、その圧力で抜き型を押して、革を抜きます。

抜き型は各アイテムのパーツごとに抜き型の職人さんに作ってもらいます。
かなり細かいカーブや穴なども精密に再現してくれます。すごい。

それぞれに革の厚みや裁断の際の注意点など書き込んであります。

抜き型用の棚。アイテムごとに、多いものでは30パーツほどあるので、抜き型はたまるばかり・・・

裁断する際はまず革をよく観察します。
先述の通り革には元々傷や染みがありますので、それらの場所を把握して避けながら取っていかなければなりません。
しかも、表面的にはキレイに見えていても曲げることで出てくる、隠れている傷もあるので、細部まで確認しながら作業を進めます。

革の表情の確認中。はじめた頃は裁断したあとに、隠れていた傷に気づくことも多々ありましたが、長くやっていると隠れた傷がありそうな気配を感じるようになってきます。

例えばこんな傷が。
虫刺されの跡であったり、ひっかき傷のようなものであったり、色々な傷があります。

傷の部位などを確認できたら、抜き型を置いて裁断をしていきます。
革の形、傷や染みの位置に抜く形を合わせて、できる限り無駄が出ないようにとっていきます。

革を台の上に置き、裁断する場所の上に抜き型をおきます。

ボタンを押したら、ヘッドの部分が下におりて抜きます。

抜き型と裁断済みの革。
これはスマートキーケースのパーツですが、このようにカーブがあったり穴が開いているようなパーツは特に手裁断では時間がかかるので、裁断機があると助かります。

抜いた後の革です。右上が斜めになっているのは元々の革の形です。
斜めな部分も少しでも無駄が出ないように、パーツの組み合わせや向きを考えて抜いていきます。

以上が裁断の作業になります。
手を動かすという意味での技術がいるわけではありませんが、多くの情報を入れて、判断するということでは最も頭を回転させながらする作業ではないかと思います。
数が多い時は一日中裁断していることもあるので、そんな日はクタクタです。
簡単そうに見えて、経験が重要な大事な作業です。

豊田観自

プロフィール

豊田観自   代表/デザイン/製作

1985年 広島県生まれ。
大学卒業後、東京浅草の和太鼓・御神輿を製造販売する会社で営業職として働く。
その経験の中で、多くの「職人」と接して自分もモノを作る仕事をしたいと思い、
より日常的な「道具」を作りたいと考え、革製品のメーカーに転職。
2010年から大阪のレザーブランドで5年半、製造・販売に携わり、2015年独立。
自らデザイン、製作、販売までするファクトリーブランド「TSUKIKUSA」を立ち上げる。
革製品の製造に携わって12年ほど(2022年時点)
「小さい」ことと「使いやすい」ことを両立したお財布など、コンパクトな革小物を中心にアイテムを展開。
クラフトイベントへの出店からはじまり、近年は百貨店催事にも数多く出店中。