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革小物の製作過程について、少しづつご紹介していましたが、なんだかんだと随分間が空いてしまいました。
すみません。
また少しづつにはなりますが、書いていきたいと思います。
今日は「組み立て」についての続きからです。

以前書いた通り、「組み立て」はひとつの工程というより、細かないくつもの工程の積み重ねで、それも材料ごと、パーツごとに繰り返していく時間のかかる部分です。
その中で、今回説明するのは「縫製」です。

革製品をつくる、と聞くと多くの方が真っ先にイメージするのがこの縫製の作業ではないでしょうか。
ある意味で革小物の製作過程においての花形の作業と言えるかもしれません。

縫製には手縫いと、ミシン縫いがあり、TSUKIKUSAではほとんどの縫製をミシンで行っていますが、一部構造的にミシンで縫えない場所や、特に強度が必要な場所に関して手縫いをする場合もあります。

目次

ミシン縫い

工業用ミシンを使用して縫製をしています。
使用しているミシンはKOSEIの腕ミシン。

腕ミシンとは、針が刺さる土台の部分が、平らな板状ではなく、棒状になっているミシンのことです。
腕ミシンに対して、土台が平らになっているタイプのものは平ミシンといいます。
生地を縫う場合には圧倒的に平ミシンの方が縫いやすく、また鞄などでパーツが大きいものも平ミシンの方が台に広げて縫えるので縫製しやすくなります。
ただ、筒状のものや、立体的なものは縫うことができないので、細かい部分の多い革小物の製作には腕ミシンが主流となっています。
工業用ミシンが普通のミシンと何が違うかというと、簡単に言えばモーターのパワーが強いことで、縫製する対象を送る力が強く、厚みがあるものでも縫えるということになります。
細かいことを言い出すと長くなるので、ミシンそのものについてはまたいつか別途書きたいと思います。

ミシン縫いの際、特に気をつけているのは以下の部分です。

1)ピッチを揃える。
ピッチ(=糸目の幅)を揃えるということを意識して縫製をしています。
革を縫う際、当然縫う部位によって厚みが変わってくるのですが、厚みが違うとピッチに差が出てしまいます。
具体的に言うと、薄い部分ではピッチが広がり、厚い部分ではピッチが細かくなります。
これは厚みがあることで、ミシンが縫製する対象物を後ろに送るのに力が必要になるためです。
一息に縫う中でも厚みはどんどん変わっていくので、その厚みの変化を感じ取りながら、手で微妙に押したり引いたりしながらピッチを揃えていきます。

2)糸調子を整える。
ミシンの場合は上糸と、下糸はそれぞれ別の糸で、上糸が下糸をすくい上げる形で縫っていくので、その糸調子(=上下の引く力のバランス)をとることが重要です。
上下どちらかが強すぎると、見た目にも美しくないですし、糸が絡んでいる部分が表に出てくると強度的にも良くないので、常にバランスをとって真ん中におさめる必要があります。
縫う革の種類や、その厚み、糸の色によってもバランスが変わってくるので、常に意識しながら縫製しています。

ミシンのこの部分で上糸の糸調子を調整します。

3)直線を真っ直ぐに、あくまで縫製が目立たないように。
書いてしまうと当たり前のことですが、意外と一番難しいのは、直線を真っ直ぐに縫うことです。
針は少しでも薄い部分や、繊維の柔らかい方など、入り易い方にズレることもしばしばあるので、作っているものの構造や革の状態に気を配っていないと、ちゃんとした真っ直ぐにはなりません。
どこかが少しズレるだけでも凄く悪目立ちするのが直線の縫製なのです。
美しい縫製ほど、目立たず馴染むので、目立たない縫製をすることを心がけています。

手縫い

先ほど書いたように、TSUKIKUSAでは9割方の縫製はミシンを使用していますが、その部位により手縫いをする場合があります。

手縫いをする際は、いきなり針で縫うわけではなく、まず目打ちという道具で、革の縫製部分に穴を開けていきます。そしてその後を追って針と糸、菱ギリを使って縫製を進めていきます。

手縫いの道具。
目打ち(左下)を木槌で叩いて穴を開け、菱ギリ(右下)で穴を突きながら、針と糸で縫い上げていきます。

手縫いの場合はピッチや糸調子は普通にやっていればおかしくなることはないので、意識することはただただ縫うべきラインに正確に穴を開けられるかということです。
穴さえきっちり開けられればあとはリズム良く縫えば自ずと美しい糸目となります。

手縫いの場合、失敗するとしたら穴あけの段階なので、縫うこと自体は特に難しくはありません。
ただ時間のかかる作業なので、上手な人ほど短時間で正確に縫っていきます。
あえて難しいポイントをあげると、菱ギリを手に持ったまま縫うということです。
この仕事をはじめた頃、よく落としそうになりながら縫っていたのが懐かしいです。

左右に糸を引く時の引く力も必ずしも強く引けば良いというものではありません。
縫製している部位や、革の厚みなどからちょうどいいテンションになるよう縫っていきます。
ミシンに比べると強く縫い込むことが出来るので、糸切れが起こりにくいというメリットがありますが、あまり強く引きすぎると、縫製中に糸が切れてしまい、全てやり直しとなってしまうので注意が必要です。

手縫いというと「あたたかみのあるハンドメイド」というイメージがあるかと思いますが、個人的には手縫いでもミシンで縫うのと同様の正確さを求めています。
部分的に手縫いをすることはありますが、どこで手縫いしたか気づかれないような縫製をすることが理想と思っています。

まとめ

革製品の縫製が、生地ものの縫製と大きく違うのが、失敗が許されないということです。
一度糸目が曲がってしまうと、そこには針穴が開くので修正が効きません。
そのため、常に緊張を伴う作業となります。
針は薄い方へ自然と逃げたり、厚みの差があればピッチが詰まったりするのでただペダルを踏み込めば良いだけではなく、進んでいった先がどんな状態なのかを常に先読みして、押したり、引いたり、押さえたりしながら一定の仕上がりになるように、手元で調整することが必要です。

ただ、特に手縫いの場合は必要な道具も少なく、ものが組み上がっていくので、「作っている」という実感を得やすい、楽しい作業です。
東急ハンズさんなどでキットが売ってたりもするので、機会があれば是非やってみてください。

豊田観自

プロフィール

豊田観自   代表/デザイン/製作

1985年 広島県生まれ。
大学卒業後、東京浅草の和太鼓・御神輿を製造販売する会社で営業職として働く。
その経験の中で、多くの「職人」と接して自分もモノを作る仕事をしたいと思い、
より日常的な「道具」を作りたいと考え、革製品のメーカーに転職。
2010年から大阪のレザーブランドで5年半、製造・販売に携わり、2015年独立。
自らデザイン、製作、販売までするファクトリーブランド「TSUKIKUSA」を立ち上げる。
革製品の製造に携わって12年ほど(2022年時点)
「小さい」ことと「使いやすい」ことを両立したお財布など、コンパクトな革小物を中心にアイテムを展開。
クラフトイベントへの出店からはじまり、近年は百貨店催事にも数多く出店中。