鞄や靴、お財布など革製品に興味を持ちはじめて、いろいろな情報を集めていると、タンニンなめしとクロムなめしという言葉をよく聞くかと思います。
「言葉は聞いたことがあるけど、いまいち違いがわからない」という方のために、今日はこの違いについて書きたいと思います。
目次
そもそも「なめし」とは何か
タンニン・クロムの違いの前に、そもそも「なめし」とはどういう意味でしょうか。
「皮」から「革」へ
「なめす」という言葉を辞書で調べると以下のようにあります。
動物の生皮から不要なたんぱく質や脂肪を取り除き、薬品で処理して、耐久性・耐熱性・柔軟性をもたせる。 (小学館・デジタル大辞泉)
この説明の通り、生皮の状態では腐敗し、硬化してしまうので、加工することで、腐敗を防ぎ、道具の材料として使用できるようします。
この加工の工程が「なめし」です。
タンニンやクロム等のなめし剤を皮のコラーゲン繊維に結合させて繊維構造を安定させることで腐敗や硬化を防ぎます。
なめしによって「皮」は「革」となり様々な製品に利用できるようになります。
なめしの歴史
古くから皮は人間の生活と密接に関わっていました。
古代人は皮を衣服や、家(テント)として利用していたことが知られています。
その中で、動物の脂や、草木の汁につける方法や、煙で燻す方法など様々な方法で皮をなめしてきました。
長い年月の中で、草木の渋(タンニン)を抽出してなめす方法が主流となり、さらに化学の進歩により、鉱物を使ってなめす方法を開発したことで、以前よりも容易に「革」にすることが出来るようになりました。
タンニンなめし
それでは本題のタンニンなめしとクロムなめしの違いについて、まずはタンニンなめしについての説明です。
TSUKIKUSAで使用しているタンニンなめしの革 ミネルバ・リスシオ
タンニンなめしとは
植物の樹皮などから抽出した渋(タンニン)をなめし剤として使うもので、古代エジプト時代からおこなわれていたという古典的ななめし方法です。
現在では、ミモザ、ケブラチョ(ウルシ科の植物)、チェスナット(ブナ科の植物)などのタンニンを使用するのが主流となっています。
植物の渋を使うため、「ベジタブルタンニンなめし」と表現されることもあります。
また、100%タンニンでなめしたものを、そうではないものと分けて「フルタンニンなめし」と言ったりします。
よく「ヌメ革」という表現も使われますが、これもタンニンなめしの革のことで、特に染色されていない革のことをそう呼びます。
なめしの工程に2週間〜数ヶ月と長い期間がかかる上、ピット槽(皮を浸けておくためのプールのようなもの)を設置するために広大な面積を必要とするなど時間と手間がかかるなめし方です。
タンニンなめしの革のメリット
・エイジング(経年変化)
自然の植物から抽出したなめし剤を使用しているので、革がそもそも持つ表情や風合いが残り、エイジング(経年変化)を楽しめます。
使えば使うほどに艶が増し、色も深くなっていくので、革の成長を楽しみながら使うことが出来ます。
・厚み
一般的にタンニンなめしの革の方が厚みがあるものが多くあります。
革は漉きという工程で薄く加工をしていくので、元々厚みがあるものについては好みの厚みにすることが可能です。
一方薄いものを厚くすることは出来ないので(裏に芯材や革の床材を貼り合わせることで加工する場合はありますが)厚いものの方が広い用途に使えると言えます。
実際、革靴のヒール部分などは厚みのあるタンニンなめしの革が使用されています。
・耐久性
耐久性が高いことも、この革の特徴です。
TSUKIKUSAでも長くご使用いただいた自社製品の修理など受け付けていますが、ほとんどがホックやファスナーなどの問題で、革が傷んだことによる修理はほとんどありません。
丈夫だからこそ、長く使えて、よりエイジングを楽しんでいただくことが可能になります。
・コシの強さ
タンニンなめしの革は繊維のつまりが強固で、コシが強く、ハリがある仕上がりのものが多くあります。
古くは馬の鞍などに使われていましたが、トランクや、ダレスバッグなどタンニンなめしの素材だからこそ出来る形があります。
タンニンなめしの革のデメリット
・傷がつきやすい
タンニンなめしの革はどうしても爪などによる傷がつきやすい特徴があります。
この点については丁寧に使う以外に防ぎようがないのですが、使い込んで、革の色合い自体が深くなると自然と目立たなくなっていきます。
・革が元々もつシミや傷などある
タンニンなめしの革の染色では自然な風合いを生かして、透明感のある仕上げにしているものが多いので、薄い色合いではどうしても元々革が持っているシミや傷が表面から見えてしまいます。
これをどの程度製品に入れるかはブランドにより基準が色々ではありますが、避けて裁断することになると材料のロスが多くなるので、結果的にコストが増えて、商品価格にも転嫁されるものとなります。
・水や油などが浸透しやすい
水や油などが革の繊維の中に浸透しやすいので、そういったものが付いた時にはシミとして残ってしまいます。
これについても革のエイジングが進むことで目立たなくなりますが、気になる場合はミンクオイルなど革用のオイルを塗ることである程度は目立たなくすることが可能です。(革とオイルには相性がありますので、ご使用の際はお気をつけください。)
ただ、革が水に弱いわけではないので、少々濡れたくらいであれば、しっかりと自然乾燥させてあげれば強度の面では問題ありません。
・比較的高価
前述したように、タンニンなめしは非常に手間と時間がかかるなめし方なので、その分価格も高い傾向にあります。
クロムなめし
続いてクロムなめしについての説明です。
TSUKIKUSAで使用しているクロームなめしの革 ドイツシュリンク
クロムなめしとは
クロムなめしは、1858年にドイツで開発された、比較的新しい技術です。
タンニンの代わりに塩基性硫酸クロムという化学物質をなめし剤にしてなめし方法となります。
クロムなめしの革は、タンニンなめしの革と比べて、柔らかく、弾力性があり耐熱性、発色性が高い特徴があります。
また、1日でたくさんの革をなめすことが出来るので、生産コストを下げることが可能になりました。
新しいなめし方法ではありますが、現在では革製品の80〜90%はクロムなめしの革となっています。
クロムなめしの革のメリット
・傷がつきにくい
クロムなめしの革は傷がつきにくいのが特徴です。
爪でひっかいた程度では見えるような傷はつかないものがほとんどです。
・水が浸透しにくい
水分についてもある程度は浸透せず、はじくので少し雨で濡れてしまった程度であれば気にする必要はありません。
すぐに水気を拭き取ってあげれば大丈夫です。
・柔らかい
良くも悪くも、というところではありますが、柔らかく仕上がるのが特徴です。
例えばハンドバッグやジャケット、手袋など柔らかいからこそ出来るものも多く、クロムなめしが出来たことで革製品の幅は大きく広がったと言うことができます。
・比較的安価
前述の通り、生産にかかる時間が大幅に削減されたことで、生産コストも下がり、タンニンなめしの革と比べると安価に手に入れることができます。
ただ、一部の高級なクロムなめしの革はむしろ大変高価で、高いものと安いものが二極化している印象があります。
クロムなめしの革のデメリット
・エイジングしない
大きなデメリットはないのですが、あえて言うのであればエイジングしないということです。
クロムなめしの革は経年変化がほとんどないため、使い込んだ時の風合いの変化は見られません。
そのため、一度傷が付いたり、汚れてしまうとそれを目立たなくすることはタンニンなめしの革と比べるとしづらくなっています。
エイジングについてはそれを求めるかどうかというとこなので、個々の価値観によってデメリットでもないかもしれませんが、いわゆる革らしい革なのはタンニンなめしの革と言えます。
タンニンなめしの革とクロムなめしの革は特徴が正反対なので、それぞれのメリットが他方のデメリットという関係になっています。
コンビなめし
最近増えているのがコンビネーションなめし(略してコンビなめし)です。
名前の通り異なるなめし方を組み合わせたなめし方のことです。
ほとんどはタンニンなめしとクロムなめしの組み合わせで、タンニンなめしのエイジングやコシの強さ、クロムなめしの耐熱性や発色性といった特徴を併せ持つ革となります。
一般的に、まずクロームなめしをした革に、再度タンニンなめしをすることで仕上げます。
その際、クロームなめしの比率が高ければよりクロームなめしの革に近く、タンニンなめしの比率が高ければ、よりタンニンなめしの革に近くなります。
いいとこ取りではありますが、例えばエイジングについて言えばタンニンなめしの革には敵いませんし、耐熱性ではクロムなめしの革には劣ります。
両方の特徴をバランスよくもったなめし方と言えます。
エイジングを求めるか、キレイに使うことを求めるか
ここまでなめし方によるそれぞれの特徴をまとめてきましたが、結局のところどっちがいいというものではなく、それぞれに特徴があるということはご理解いただけたのではないかと思います。
その中で一番大きな差はエイジングするか否かということです。
使い込んだタンニンなめしの革製品を見た時、その艶感や、色味の深さに魅力を感じる人もいれば、傷が多くて汚れているなと感じる人もいるでしょう。
魅力を感じる人は是非タンニンなめしの革製品を使って、エイジングを楽しんでください。
キレイなまま使いたい、という人は、クロムなめしの革製品を選んでください。
その両方を楽しめるのが革という素材の良いところではないでしょうか。
プロフィール
豊田観自 代表/デザイン/製作
1985年 広島県生まれ。
大学卒業後、東京浅草の和太鼓・御神輿を製造販売する会社で営業職として働く。
その経験の中で、多くの「職人」と接して自分もモノを作る仕事をしたいと思い、
より日常的な「道具」を作りたいと考え、革製品のメーカーに転職。
2010年から大阪のレザーブランドで5年半、製造・販売に携わり、2015年独立。
自らデザイン、製作、販売までするファクトリーブランド「TSUKIKUSA」を立ち上げる。
革製品の製造に携わって12年ほど(2022年時点)
「小さい」ことと「使いやすい」ことを両立したお財布など、コンパクトな革小物を中心にアイテムを展開。
クラフトイベントへの出店からはじまり、近年は百貨店催事にも数多く出店中。