革小物の製作過程。
今日は「ヘリ漉き」についてです。
「漉く」と聞くと紙を漉くことをイメージされる方が多いのではないかと思いますが、革の厚みを調整する作業のことも「漉く」と言います。
革の厚み調整では一枚の革全体や、裁断したパーツ一枚を漉く「面漉き」と、革のヘリ(端)を漉く「ヘリ漉き」があります。
面漉きのための機械は大きな機械で、価格も高く、私は持っていないため、専門の漉き屋さんに加工をお願いしています。
ヘリ漉きは、革包丁を使い手作業でやる場合もありますが、多くの場合は専用のヘリ漉き機を使います。
TSUKIKUSAで使用しているヘリ漉き機。
ヘリ漉き…それは完成した時には見えないけれど、仕上がりの良し悪しを決めると言っても過言ではない、重要な工程。
趣味で革製品を作っている方が、「縫製やコバ磨きが綺麗に出来るのに、何か商品として販売されているものと違う」と、悩んでいるとしたら、それはおそらくヘリ漉きの精度の違いです。
ヘリ漉きには、大きく分けて3つの方法があります。(細かいことを言うともっと色々ありますが…)
1.斜め漉き
パーツが重なる部分の厚みを抑えるための漉き方。これをすることで、全体の印象をシャープにして、分厚すぎない、自然な手触りとなります。また、重なって厚みが出る部分と、そうでない部分の厚みを均一に近づけることが出来るので、縫製のピッチの安定にもつながります。
ヘリ漉きとしては最も一般的で、よく使う漉き方です。
左:厚み1.5mmの革の断面です。
右:ヘリ漉きをしたところ。
同じ厚みですが、左側の端が斜めに薄くなっているのがわかるかと思います。
2.ヘリ返し
革の端の部分だけを折り返すヘリ返しの時にする漉き方です。TSUKIKUSAでは、カード段のパーツで特に多用しています。決まった幅だけ薄く漉くことで、漉いた部分と、漉いてない部分に段差を付けて、折り曲げやすく仕上げます。
左:漉く前の革の裏
真ん中:ヘリ返し用に漉いたところ。端部分に段が出来て、薄くなっています。薄い部分が大体0.3mm程の厚みで、ここを折り返します。
右:このように指で簡単に折り返すことができます。
3.溝漉き
パーツを折り曲げるために、部分的に溝を付ける漉き方です。
角度をつけて曲げる場合は狭い幅で、広めのRの場合は広めの幅でと、場所によって幅や深さが変わります。
右:溝があることで、スムーズに曲げられ、曲げた部分の厚みも薄くおさまります。
これらの漉き方を適宜組み合わせて、ひとつの製品を作っていきます。
漉き機は、回転する丸い刃に対して、革の断面を当ててスライドさせることで厚みを調整します。
その際、押さえの高さや角度を調節することで、厚みや断面の角度などイメージの形に持っていきます。
この辺りについては、説明が非常に難しいので、興味がある方は漉き機のメーカーである「ニッピ機械」さんのHPをご覧ください。
http://www.nippy.jp/category/kawasuki
押さえには幅や形が色々あって、漉きあがりのイメージに合わせて付け替えながら作業を進めます。
イメージ通りの厚み、角度に漉くのも技術と経験が必要ですが、何よりも刃を研ぐことが上手に出来るか否かが全てと言ってもいいくらいです。
幅やRの角度が違う様々な押さえパーツ。
足でペダルを踏むとモーターが回って刃が回ります。両手で革がズレないように支えながら漉いていきます。
漉きの作業は0.1mm単位で厚みを調整していく、本当に繊細な作業です。
また革は一枚一枚、柔らかさやハリ感が違うため、その誤差を少なくするために、あえて厚みを変えて、製品になった時に均一になるように調整したりもします。
はじめに書いた通り、これらはほとんど完成した時には見えません。でも見えないながらに仕上がりに差が出る、大事な工程です。
プロフィール
豊田観自 代表/デザイン/製作
1985年 広島県生まれ。
大学卒業後、東京浅草の和太鼓・御神輿を製造販売する会社で営業職として働く。
その経験の中で、多くの「職人」と接して自分もモノを作る仕事をしたいと思い、
より日常的な「道具」を作りたいと考え、革製品のメーカーに転職。
2010年から大阪のレザーブランドで5年半、製造・販売に携わり、2015年独立。
自らデザイン、製作、販売までするファクトリーブランド「TSUKIKUSA」を立ち上げる。
革製品の製造に携わって12年ほど(2022年時点)
「小さい」ことと「使いやすい」ことを両立したお財布など、コンパクトな革小物を中心にアイテムを展開。
クラフトイベントへの出店からはじまり、近年は百貨店催事にも数多く出店中。